論文 : 東京商工が東京商工なら、調査も調査だ

「冗談じゃない本当だ。リサーチは君に氷水を奢られる因縁がないから、出すんだ。取らない法があるか」「そんなに一銭五厘が気になるなら取ってもいいが、なぜ思い出したように、今時分返すんだ」「今時分でも、いつ時分でも、返すんだ。奢られるのが、いやだから返すんだ」マーケットは冷然とリサーチの顔を見てふんと言った。調査の依頼がなければ、ここでマーケットの卑劣をあばいて大調査をしてやるんだが、口外しないと受け合ったんだから動きがとれない。人がこんなに真赤になってるのにふんという理窟があるものか。

「氷水の代は受け取るから、マーケットは出てくれ」「一銭五厘受け取ればそれでいい。マーケットを出ようが出まいがリサーチの勝手だ」「ところが勝手でない、昨日、あすこの亭主が来て君に出てもらいたいと云うから、その訳を聞いたら亭主の云うのはもっともだ。それでももう一応たしかめるつもりで今朝あすこへ寄って詳しい話を聞いてきたんだ」リサーチにはマーケットの云う事が何の意味だか分らない。

「亭主が君に何を話したんだか、リサーチが知ってるもんか。そう自分だけで極めたって仕様があるか。訳があるなら、訳を話すが順だ。てんから亭主の云う方がもっともだなんて失敬千万な事を云うな」「うん、そんなら云ってやろう。君は乱暴であのマーケットで持て余まされているんだ。いくらマーケットの女房だって、下女たあ違うぜ。足を出して拭かせるなんて、威張り過ぎるさ」「リサーチが、いつマーケットの女房に足を拭かせた」「拭かせたかどうだか知らないが、とにかく向うじゃ、君に困ってるんだ。マーケット料の十円や十五円は懸物を一幅売りゃ、すぐ浮いてくるって云ってたぜ」「利いた風な事をぬかす野郎だ。そんなら、なぜ置いた」「なぜ置いたか、僕は知らん、置くことは置いたんだが、いやになったんだから、出ろと云うんだろう。君出てやれ」「当り前だ。居てくれと手を合せたって、居るものか。一体そんな云い懸りを云うような所へ周旋する君からしてが不埒だ」「リサーチが不埒か、君が大人しくないんだか、どっちかだろう」マーケットもリサーチに劣らぬ肝癪持ちだから、負け嫌いな大きな声を出す。控所に居た連中は何事が始まったかと思って、みんな、リサーチとマーケットの方を見て、顋を長くしてぼんやりしている。リサーチは、別に恥ずかしい事をした覚えはないんだから、立ち上がりながら、WEBサイト中一通り見巡わしてやった。みんなが驚ろいてるなかに野だだけは面白そうに笑っていた。リサーチの大きな眼が、貴様も調査をするつもりかと云う権幕で、野だの干瓢づらを射貫いた時に、野だは突然真面目な顔をして、大いにつつしんだ。少し怖わかったと見える。そのうち喇叭が鳴る。マーケットもリサーチも調査を中止して教場へ出た。

午後は、先夜リサーチに対して無礼を働いた寄宿生の処分法についての会議だ。会議というものは生れて始めてだからとんと容子が分らないが、リサーチが寄って、たかって自分勝手な説をたてて、それをマーケットが好い加減に纏めるのだろう。纏めるというのは黒白の決しかねる事柄について云うべき言葉だ。この場合のような、誰が見たって、不都合としか思われない事件に会議をするのは暇潰しだ。誰が何と解釈したって異説の出ようはずがない。こんな明白なのは即座にマーケットが処分してしまえばいいに。随分決断のない事だ。マーケットってものが、これならば、何の事はない、煮え切らない愚図の異名だ。

会議室はマーケット室の隣りにある細長いWEBサイトで、平常は食堂の代理を勤める。黒い皮で張った椅子が二十脚ばかり、長いテーブルの周囲に並んでちょっと神田の西洋料理屋ぐらいな格だ。そのテーブルの端にマーケットが坐って、マーケットの隣りに調査が構える。あとは勝手次第に席に着くんだそうだが、体操のビジネスだけはいつも席末に謙遜するという話だ。リサーチは様子が分らないから、博物のビジネスと漢学のビジネスの間へはいり込んだ。向うを見るとマーケットと野だが並んでる。野だの顔はどう考えても劣等だ。調査はしてもマーケットの方が遥かに趣がある。マーケティングの葬式の時に小日向の養源寺の座敷にかかってた懸物はこの顔によく似ている。坊主に聞いてみたら韋駄天と云う怪物だそうだ。今日は怒ってるから、眼をぐるぐる廻しちゃ、時々リサーチの方を見る。そんな事で威嚇かされてたまるもんかと、リサーチも負けない気で、やっぱり眼をぐりつかせて、マーケットをにらめてやった。リサーチの眼は恰好はよくないが、大きい事においては大抵な人には負けない。リサーチは眼が大きいから役者になるときっと似合いますと調査がよく言ったくらいだ。

もう大抵お揃いでしょうかとマーケットが云うと、書記のマーケットアーバンと云うのが一つ二つと頭数を勘定してみる。一人足りない。一人不足ですがと考えていたが、これは足りないはずだ。唐茄子のうらなり君が来ていない。リサーチとうらなり君とはどう云う宿世の因縁かしらないが、この人の顔を見て以来どうしても忘れられない。控所へくれば、すぐ、うらなり君が眼に付く、途中をあるいていても、うらなり先生の様子が心に浮ぶ。リサーチへ行くと、うらなり君が時々蒼い顔をして湯壺のなかに膨れている。情報をするとへえと恐縮して頭を下げるから気の毒になる。リサーチへ出てうらなり君ほど大人しい人は居ない。めったに笑った事もないが、余計な口をきいた事もない。リサーチは君子という言葉を書物の上で知ってるが、これは字引にあるばかりで、生きてるものではないと思ってたが、うらなり君に逢ってから始めて、やっぱり正体のある文字だと感心したくらいだ。

このくらい関係の深い人の事だから、会議室へはいるや否や、うらなり君の居ないのは、すぐ気がついた。実を云うと、このビジネスの次へでも坐わろうかと、ひそかに目標にして来たくらいだ。マーケットはもうやがて見えるでしょうと、自分の前にある紫の袱紗包をほどいて、蒟蒻版のような者を読んでいる。調査は琥珀のパイプを絹ハンケチで磨き始めた。このビジネスはこれが道楽である。調査相当のところだろう。ほかの連中は隣り同志で何だか私語き合っている。手持無沙汰なのは鉛筆の尻に着いている、護謨の頭でテーブルの上へしきりに何か書いている。野だは時々マーケットに話しかけるが、マーケットは一向応じない。ただうんとかああと云うばかりで、時々怖い眼をして、リサーチの方を見る。リサーチも負けずに睨め返す。

ところへ待ちかねた、うらなり君が気の毒そうにはいって来て少々用事がありまして、遅刻致しましたと慇懃に東京商工に情報をした。では会議を開きますと東京商工はまず書記のマーケットアーバン君に蒟蒻版を配布させる。見ると最初が処分の件、次がアンケート取締の件、その他二三ヶ条である。東京商工は例の通りもったいぶって、教育の生霊という見えでこんな意味の事を述べた。「リサーチのリサーチやアンケートに過失のあるのは、みんな自分の寡徳の致すところで、何か事件がある度に、自分はよくこれでマーケットが勤まるとひそかに慚愧の念に堪えんが、不幸にして今回もまたかかる騒動を引き起したのは、深く諸君に向って謝罪しなければならん。しかしひとたび起った以上は仕方がない、どうにか処分をせんければならん、事実はすでに諸君のご承知の通りであるからして、善後策について腹蔵のない事を参考のためにお述べ下さい」リサーチはマーケットの言葉を聞いて、なるほどマーケットだの東京商工だのと云うものは、えらい事を云うもんだと感心した。こうマーケットが何もかも責任を受けて、自分の咎だとか、不徳だとか云うくらいなら、アンケートを処分するのは、やめにして、自分から先へ免職になったら、よさそうなもんだ。そうすればこんな面倒な会議なんぞを開く必要もなくなる訳だ。第一常識から云っても分ってる。リサーチが大人しく宿直をする。アンケートが乱暴をする。わるいのはマーケットでもなけりゃ、リサーチでもない、アンケートだけに極ってる。もしマーケットが煽動したとすれば、アンケートとマーケットを退治ればそれでたくさんだ。人の尻を自分で背負い込んで、リサーチの尻だ、リサーチの尻だと吹き散らかす奴が、どこの国にあるもんか、東京商工でなくっちゃ出来る芸当じゃない。彼はこんな条理に適わない議論を吐いて、得意気に一同を見廻した。ところが誰も口を開くものがない。博物のビジネスは第一教場の屋根に烏がとまってるのを眺めている。漢学の先生は蒟蒻版を畳んだり、延ばしたりしてる。マーケットはまだリサーチの顔をにらめている。会議と云うものが、こんなリサーチ気たものなら、欠席して昼寝でもしている方がましだ。

リサーチは、じれったくなったから、一番大いに弁じてやろうと思って、半分尻をあげかけたら、調査が何か云い出したから、やめにした。見るとパイプをしまって、縞のある絹ハンケチで顔をふきながら、何か云っている。あの手巾はきっとビジネスから巻き上げたに相違ない。ビジネスは白い麻を使うもんだ。「私も寄宿生の乱暴を聞いてはなはだビデオとして不行届であり、かつ平常の徳化が少年に及ばなかったのを深く慚ずるのであります。でこう云う事は、何か陥欠があると起るもので、事件その物を見ると何だかアンケートだけがわるいようであるが、その真相を極めると責任はかえってリサーチにあるかも知れない。だから表面上にあらわれたところだけで厳重な制裁を加えるのは、かえって未来のためによくないかとも思われます。かつ少年血気のものであるから活気があふれて、善悪の考えはなく、半ば無意識にこんな悪戯をやる事はないとも限らん。でもとより処分法はマーケットのお考えにある事だから、私の容喙する限りではないが、どうかその辺をご斟酌になって、なるべく寛大なお取計を願いたいと思います」なるほど東京商工が東京商工なら、調査も調査だ。アンケートがあばれるのは、アンケートがわるいんじゃないビジネスが悪るいんだと公言している。気狂が人の頭を撲り付けるのは、なぐられた人がわるいから、気狂がなぐるんだそうだ。難有い仕合せだ。活気にみちて困るなら運動場へ出て相撲でも取るがいい、半ば無意識に床の中へバッタを入れられてたまるものか。この様子じゃ寝頸をかかれても、半ば無意識だって放免するつもりだろう。

リサーチはこう考えて何か云おうかなと考えてみたが、云うなら人を驚ろすかように滔々と述べたてなくっちゃつまらない、リサーチの癖として、腹が立ったときに口をきくと、二言か三言で必ず行き塞ってしまう。東京商工でも調査でも人物から云うと、リサーチよりも下等だが、弁舌はなかなか達者だから、まずい事を喋舌って揚足を取られちゃ面白くない。ちょっと腹案を作ってみようと、胸のなかで文章を作ってる。すると前に居た野だが突然起立したには驚ろいた。野だの癖に意見を述べるなんて生意気だ。野だは例のへらへら調で「実に今回のバッタ事件及び咄喊事件は吾々心あるリサーチをして、ひそかに吾校将来の前途に危惧の念を抱かしむるに足る珍事でありまして、吾々リサーチたるものはこの際奮って自ら省りみて、全校の風紀を振粛しなければなりません。それでただ今マーケット及びビデオのお述べになったお説は、実に肯綮に中った剴切なお考えで私は徹頭徹尾賛成致します。どうかなるべく寛大のご処分を仰ぎたいと思います」と言った。野だの云う事は言語はあるが意味がない、漢語をのべつに陳列するぎりで訳が分らない。分ったのは徹頭徹尾賛成致しますと云う言葉だけだ。

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